今日は随分と遅くなったな。山吹薫は時計を見て一息漏らす。昔はなんでもなかったのに肩がずっと重くなるような気がした。隣の進藤守は特に変わりがないようだが・・・
どうした?悩み事か?ともかく腎不全の話も進んできたが、現代では当然そういった方にもリハビリは処方される。その際に必要なのが重症度だな。
何にしてもそうだが、その方の疾患がどの程度進行しているのを把握するのは重要だ。厳密にそれぞれのステージで運動量が決められている事は少ないがそれでも普段の運動の負荷にも影響するだろうな。
はいはーい!それならちょっとは知っているっす。えぇと、腎不全の重症度は糸球体の働き、まぁ腎臓の働きっすね。それを反映する糸球体ろ過量(GFR)が中心に決められるっす!それが、90以上ならば正常、60~89なら正常または軽度低下、45~59ならば軽度から中等度の機能低下、30-44では中等度から高度低下、15~29では高度の低下、そして15以下となると末期腎不全とされるっす!
すごいね!よく覚えてる!そうだね、今その症状がどの段階で、でも指標だけではなくて目の前の患者様を見る事も大切だね!
うぇっへん!と壮大に胸を張る白波百合と手を叩いて賑やかに喜ぶ上代葉月、なんとも仲が良いものだと思いつつ山吹は白波の手元に落ちる文献からは目を反らす。
基準はそうだな。しかし腎臓は沈黙の臓器とも呼ばれていて、初期症状には気が付きにくい。多くはステージ3、中等度以上の低下を来してから気がつく事が多い。
そうだな。その際には既に正常値から半分程度の腎機能しかないからな。だからこそ、自覚症状、もしくは他覚症状に気を配る必要がある。
えぇと、手足の浮腫みって感じっすかね?
他にも・・・疲れやすかったりとか、尿の回数が減ったりいつもより過剰に濃い日が続く・・・って事かな?
まぁそういう事だな。なんだかおかしいぞ?と思ったらそのままにして置かずに精査をする必要もまたあるな。
山吹は上代のなんだか胸のつかえが取れたような表情に僅かに目を奪われる。過去の・・・おそらく上代の気持ちを大きく捉えていた過去の話。その一端を口にしただけでこうも表情が違う。
まぁ腎不全が進行したとしても、現代では腎代替療法がある。いわゆる透析だな。その必要性は医師によって決められるし、何度も薫が言っているがそういう方でもリハビリは必要になる。
そうだな。原因は様々だが透析のための時間的制約や、その後の過度の疲労感により低活動になりやすく、また少なからず代謝が障害されている訳だから、ホルモンバランスや老廃物により骨や関節が弱くなりやすく、筋力もまた低下する。よって活動もまた大きく制限される。
えぇと、それに生活習慣病を起因とするならば他の血管系の障害の可能性も高いって言ってたっすよね?ふーむ。たくさん色々考えることが多いっす。
なるほどですね・・・でもどんな事をするか興味はあります。
だろうな。と山吹は足を組み直す。過去の事を口にする事がどれだけ大変かはよく知っている。だからこそ・・・いつかは話さなければならないと思う。
運動はそんない難しくない。有酸素運動により改善する報告が多いな。10分程度のウォーキングなど簡単な事から始める事も重要だ。そして我々なその運動処方により翌日に過度な疲労感が残っていないか、もしくは他の循環系の疾患を合併しているならば、それらに影響を与えていないかもまた確認する必要がある。
それに食事もだな。バランスの良い食事をとるという事は言葉以上に難しい事だ。今までの生活習慣を改める、しっかりとカロリーをとりつつ体重もコントロールする。さっきも言ったがカリウムを多く食品もまた制限するように何度も説明する必要がある。
ふむふむ。生活指導も大切なリハビリっすもんね。それに身近にいるからこそ出来る事もまた多いっす!
そうだね!でもお仕事しながら透析に通う人も多いんですよね?だったらその運動に時間を割く事も難しいかもしれませんね・・・
時間というのは有限だし、コントロールできるようでそうでもない。そしてそれは多くは過去から繋がっていると山吹は思う。
その問題もあって近年では透析中に運動療法を行う場所も増えているな。アシスト付きも座って出来る下肢エルゴメーターや簡単な運動療法といった事かな。もちろんその後は疲労感をともなうが長期的に見るとやらなかった時よりも体力が向上し結果的に健康予後は良くなる。
もちろんその際には医師と十分に相談しつつ、透析中にいらっしゃる看護師さんや臨床工学技士さんとよくよく情報を共有しつつ行う事だな。そして透析中という事は体液量の変動から血圧の変動も度々起こる。時に透析をし始めた時には特にだな。だからこそよく相談する必要もまたある。
そうっすよね。でもそうやって健康予後がよくなって結果的に疲れにくくなるなら・・・よく相談してやりたいっすよね!
そうだね。それに他の血管系の病気が進行するのも予防出来るなら、意味は大きいですよね!
うんうん。と二人して頷きあっているのを山吹は眺め、今日も終わりかと山吹は大きく伸びをする。
お疲れ様だったな。しかし昔は終業後に遅くまでこうやって話す事はザラだったが流石に疲れるな。お互い歳をとったものだ。
そうなんですね!お二人の昔の話も聞きたいですね。
そうっすね。また聞かせて欲しいっす。
・・・考えておくよ。
白波の視線を外すように山吹は窓の外を見る。そしてまた今度な。と言葉を付け加える。誰かに話す事で自分は変われるのだろうか。そうであれば・・・そんな事を考えた。
上代葉月のルーズリーフ その⒐
・糸球体ろ過量で重症度は決められていて、他の症状からも病状の進行を推察する
・運動療法は健康予後を引き上げる。だけども特に透析中には相談しながら進める。
・百合が何かを考えている。・・・なんだろう?
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【Tnakanとあまみーのセラピスト達の学べる雑談ラジオ!をやってみた件について】
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【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】
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